コース設計アーカイブ

Archives of Golf Course Designing

ゴルフのルーツとコース設計の変遷

日本ゴルフコース設計者協会 理事長 佐藤謙太郎

1. ゴルフのルーツ

井山登志夫氏の著書に「ゴルフのルーツを探る」という本がある。色々な文献をひもとき、ゴルフのルーツを立証されている。その著書によるゴルフのルーツ、歴史を紹介したい。
「ゴルフの起源はスコットランドのセント・アンドルーズにある」と言われ、またセント・アンドルーズは「ゴルフ発祥の地」とも言われる。もし現在のゴルフを「近代ゴルフ」と呼ぶとすれば、ゴルフにはルールがある。そのルールの上に近代ゴルフが成立している。そのもとをただせば1754年に成立したセント・アンドルーズの13カ条のルールに行き着く。したがってセント・アンドルーズの13カ条の成立をもって近代ゴルフの誕生ということができる。それが「ゴルフの起源はセント・アンドルーズ」と言われる所以である。
では近代ゴルフ以前のルーツはどうか。「ゴルフはスコットランド以外のところからスコットランドの東海岸に渡来した」という考えが従来もさまざまな形で主張され、特にヨーロッパ大陸ルーツ説として流布されてきた。
ゴルフのルーツについて井山氏は、フランス中世のクロスから始まったと立証している。クロスとは、鉤形となった棒を使ってボールを打つゲームで、いかに少ない回数でゴールもしくは穴に入れるかを競うゲームであったことを示す1244年最古の文献があるとし、このクロスというゲームが今日のゴルフのルーツであると立論している。クロスの伝播を各国の記録からたどると1244年のフランスのクロスに続き、1360年ベルギーのコルベン、1387年オランダのコルフ、そして1412年にセント・アンドルーズ大学の議事録にゴルフという言葉が登場することで、この時期に渡って来たことが分かる。さらに1457年のジェームズ2世によるゴルフ禁止令の記録から、ゴルフはフランス~ベルギー~オランダ~スコットランド東海岸の四拠点を通過ルートとして伝播し、スコットランドの地で今日のゴルフへ成長したと結論付けている。
そのスコットランド東海岸のゴルフ場が現在リンクスと呼ばれ、世界のゴルファー及びコース設計者の教本となっている。

2. 日本コース設計の原点及びコース評価

日本のゴルフは1901年、神戸ゴルフ倶楽部4ホールの開場から始まった。1930年にチャールズ・ヒュー・アリソンが来日し、その設計理論が赤星四郎・六郎兄弟をはじめ藤田欽哉、大谷光明、上田治、井上誠一など数多くの日本人設計者に受け継がれ、それが現在にもつながっている。
そして、ハリー・コルトやアリソン同様、現在の基本設計の教本となったのは、1914年の設計コンテストにおけるアリスター・マッケンジーのグリーンまで幾通りかの戦略ルートをもつ理想的なパー4の設計図である。この攻略方法が全てのルーティング・プランの戦略型の原点となって世界の設計者のバイブルとなっている。
設計で重要なことは戦略性である。また、各ホールはゴルファーの力量によって攻略ルートが幾つかあるが、全てのハザードは公平で、かつ、全てのゴルファーのため挑戦的でなければならない。また、設計者による1本のベストルートを強要することでなく、ゴルファーに常に考えさせることができるかが重要である。

3. 日本のゴルフコースの変遷

日本のゴルフコースのグリーンは当初コウライ芝であった。いわゆる洋芝は1919年ごろ、三菱グループの岩崎小弥太男爵が英国から芝の種を数種類取り寄せ駒沢コースの一部にばらまいたのが始まりという。その中に冬でも枯れない芝があり、それを10年ほどして相馬孟胤子爵が採取し育成した。1930年頃から日本もベント1グリーンが増えたが、夏の暑さで壊滅するなどグリーン管理の難しさからやむを得ず2グリーン設計に移行した。
2グリーン設計が最も多用された時期は、昭和20年以降ゴルフ場建設ブームの昭和55年頃までで、その後は管理技術の向上により圧倒的に1グリーンによる設計が行われるようになった。私が2008年版ガイドブックを調べたところ、収録されていた2327の国内のゴルフ場の内1グリーンは1418コース、2グリーンが909コースと1グリーンが全体の60%以上を占めていた。中でもベント芝の適している寒冷地区の北海道と東北及び長野、新潟は全457コース中382コースが1グリーンと全体の80%以上に達している。やはり2グリーンが温暖な地域に多いのは、当時いかにベント芝の管理が困難だったかを示すもので苦肉の策だったと思われる。日本には名門と呼ばれる古く伝統的な素晴しいコースが数多くあるが、それらのコースも多くは1グリーンではなく2グリーンだ。
コースの良さは、ほぼ80%ルーティングと地形で決まり、後の20%はデザイナーによるものであろう。日本のメジャーなトーナメントでは、伝統のある古い2グリーンのコースが開催コースとして採用されることが多い。1グリーンで比較的歴史の浅いコースが採用されることもまれにあるが、何故か歴史の浅いコースがノミネートされることはほとんどない。もちろん理由は交通条件やギャラリーの観戦のしやすさなど興行的なこともあるが、理由の一つに練習場施設の充実があげられる。これらのゴルフ場が造られた当時、練習場のないコースなど考えられなかっただろう。日本以外の海外のコースでは当たり前だからだ。その点歴史の浅いコースには練習場施設が少なく残念である。

4. 新興国(アジア)におけるコース設計

アジア(中国、韓国、タイ、マレーシア、ベトナム、カンボジア) 各国のコース設計に参加し、プロジェクトチーム(オーナー)に主に求められるのが、コース区域の選定基準(その理由)、コースの将来性(10年後、30年後)、デザイン性(設計者の主張するデザイン)、戦略性の豊かさ、またトーナメントは開催可能かなど多岐にわたる。特に発展著しい新興国では、世界中の設計者によるリンクスに起源するタフで戦略性の高いコース造りが進められており、その戦略性、デザインなど高い評価のコースはオープン数年で世界のトップ100に選ばれ、トーナメント開催コースとして名を馳せている。海外での設計で恵まれているのはコース設計に自由があり、設計者の戦略性と芸術性を多く求められるが、その反面攻略ベストルートが幾つあるかどうか厳しい意見も飛び交う。
かつては日本もアリソンの設計図通り造形されたゴルフ場に対し、ハザードの位置やバンカーの深さなど誰も文句は言わなかった。それで現在のアリソンバンカーが伝承されたのであり、同様にアジアでもアリソンの手法を用いた美しく挑戦的なコースが数多く完成している。各プロジェクトのオーナー達はルールやゴルフプレーなどの点でまだ未熟な面はあるが、コースデザインに対しては非常に高い見識を持っている。
現在はインターネット上で世界の名コースを瞬時に検索して見ることができる。また、テレビのゴルフ専用チャンネルも多く、スコットランドやイングランドの戦略型、あるいはペナルティー型コース、米国のダイナミックで美しくタフなコースなど、居ながらにして情報を得ることができるので、設計者に戦略的美しいコース造りを要望するのである。
束縛されることのない自由な発想と、挑戦し甲斐のあるコース造りをすることが、世界のトップ100にノミネートされる重要な要件であると信じる。

2010年5月.(協力:一季出版(株))

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