コース設計アーカイブ

Archives of Golf Course Designing

ワングリーン化改造工事について

日本ゴルフコース設計者協会 理事 倉上 俊治

グリーン芝草の歴史

ゴルフコースのグリーンは本来ワングリーンである。1903年日本ではじめて誕生した神戸ゴルフ倶楽部のグリーンは砂を固めたサンドグリーンであった。サンドグリーンの欠陥を補うためにローカルルールが作られた(1901年に4ホール、1903年9ホール:倶楽部設立、1904年18ホール完成)。翌年にできた横屋ゴルフアソシエーション(6ホール)もサンドグリーンであった。1906年、3番目にできた横浜市の根岸競馬場内の根岸ゴルフクラブ(9ホール)が日本で初めてグリーンに芝草を採用した(資料焼失のため芝草の種類は不明)。1930年、東京ゴルフ倶楽部朝霞コースで初めてグリーンにベントグラスが採用されたが、1941年閉鎖された。 朝霞コースは例外として日本のゴルフコースは当初、我が国の気象条件からコウライワングリーンで運用されていた。しかし、入場者の増加と芝草保護のため、日本独自のコウライツーグリーンシステムが生れた。さらに、欧米のゴルフコースのグリーン状況がゴルファーに広まるにつれ、冬期でも常緑で良質なクオリティのグリーンが望まれるようになり、サブグリーンにベント芝が採用されるようになったのは戦後のことである。ただ、ベントグラスは夏期の高温多湿の影響を受けて生理障害や病害の発生を起こしやすい。このため、夏期に生育旺盛なコウライ芝をサマーグリーンとし、冬場は冷涼な気候を好むベントグラスをウインターグリーンとして使用するようになり、日本にコウライ、ベントのツーグリーンシステムが広まった。 1961年、スリーハンドレッドクラブ(300C)でペンクロスベントが初めてメイングリーンに採用され、年間を通して安定した生育成績が証明された。その後コース管理技術の向上によりグリーンの使用期間はベントグリーンが9~10カ月、コウライグリーンは2カ月余りの使用となっている。 1960年代の新品種ペンクロスベントはパッテイングクオリティも良く、病害回復力も強く、管理し易いので、全国でベントグリーンの90%がペンクロスベントを採用するに至った。しかし1970年代後半になると、アメリカではさらに高品質なグリーンでプレーしたという期待と要求が高まり、ベントグラスの品種改良が進められた。その結果、低い刈高が維持できる直立した芝草で生育も良く、密度の高い病害抵抗性を持ったニューベントグラスが開発された。 新品種ベントの開発に加えて、グリーンの床土構造の改良(USGA方式等)、散水設備の発達(自動スプリンクラーシステム)、芝草管理技術の向上などにより、1980年代以降は我が国でもベントワングリーンのゴルフコースが数多く建設されるようになった。 このように時代の変遷と共にコース設計の基本が変化し、芝草管理技術が向上する中で、グリーンの芝草も毎年新しい品種が出現するようになっている。既存のコースにおいても、時代と共に進化しなければならないのは言うまでもないだろう。

コース改造の進め方(ワングリーン改造)

グリーンを改造するには三つの方法がある。18ホールのコースの例で言えば全面クローズして改造を行うケース、9ホールずつクローズし2回に分けて実施するケース、そしてクローズはしないでテンポラリーグリーン(仮設グリーン)を築造して改造を行う方法である。 どのケースでもメンバーやプレーヤーには迷惑が掛かるので、綿密な計画と予算を立てて行わなければならない。そして計画の策定についてはコース改造委員会を設置してコース設計者を決め、理事会や委員会さらには会員からの意見を聞いて改造の目的と範囲を明確にすることが重要である。その改造計画ではコースの戦略性の向上、プレーの楽しさの増大、コースの美しさ、打球事故の防止、プレー進行の円滑化、コース管理費の軽減などが実現できるようなものでなければならない。 クラブ側としても改造の主旨や効果を会員に理解してもらい、会員のコンセンサスを得る努力をすることも必要である。そして何よりもこれらの改造計画を円滑に進めるためには、経験豊かなコース設計者の起用が重要である。

水使用量を減らす土壌改良

コース改造(グリーン改造)は新コースの造成よりも難しい。改造設計者は原設計者の設計コンセプトを理解するために全ホールを調査し、コースレイアウト(ルーティング)、地形、地質、樹木、方位、防災施設など各ホールの特徴、問題点を列記してマスタープランを作成しなければならない。 次に改造計画図を作成するために、現況グリーン及びその周辺を含めた地形測量図(高低、平板測量)を縮尺200分の1で作成する。図面に表示する施設は既設グリーン、カラー、スプリンクラーの位置、ガードバンカー、グラスバンカー、エプロン(フェアウエイの一部)、修景池、マウンド、歩径路、カート路、管理道路、集水桝、散水栓、散水機器ボックス、OB杭、ネットフェンス、樹木、方位などの位置と高さ(標高)を明記する。 この詳細な地形測量図に改造する新しいワングリーンの位置、形状、高さ、周辺樹木の本数と間隔、マウンド、バンカーの位置を入れる。注意したいのは旧グリーンの一部利用には固執しないことだ。原設計のコンセプトを引き継ぎながら、大胆に計画した方がホールバランスは損なわれない。 1ホール当りのグリーンの大きさは、550~700平米が適切である(グリーンの大きさはホールバランスや標高、気象条件により変る)。グリーン面積の変更に伴いガードバンカー、グラスバンカー、マウンドの位置、形状、面積も変更する。基本計画図、基本計画説明書、面積表、数量表、工事概算書を基にコース設計者はコース委員会で改造のポイント、予算の説明、工期の説明を行う。 グリーン改造計画の骨子が決まったならば、以下の手順によって改造工事の内容と方法を決定しなければならない。 1.グリーン芝草の選定……グリーンキーパーの意見も聞いて決定する。 2.決定した芝草の工事方法を決める……播種する方法か、ゴルフ場のナーセリーのソッドを張るか、芝草育成会社に外注したソッドを張る。 3.テンポラリーグリーン(仮設グリーン)を築造して行う場合には2と同じ方法でグリーンの芝草を決める(面積は1カ所当り200~250平米が経済的である)。 4.上記の工事内容が決定したなら、グリーン改造設計図(縮尺200分の1)、グリーン改造設計説明書、仕様書、面積表、数量表、材料品調書、改造工事費内訳書、工事工程表を作成してコース改造委員会、理事会の承認を得る。 5.工事会社を決める入札……現地説明、工事内容、金抜き工事内訳書、仕様書について説明。 6.工事会社の決定……施主とコース設計者で協議して決定する。 7.工事契約の締結……工事条件、工事金額、工事期間、工程表。 8.現地で工事会社と施主、コース設計者で安全工事について打合せ……営業を継続しながらの工事については、特に綿密な打合せが必要。 工事が終了したら竣工検査を行い、設計者が竣工検査報告書を施主に提出、これを理9.事会、コース改造委員会が承認してグリーン改造竣工となり、コース管理課に引渡しとなる。なお竣工検査前でも、グリーンの養生管理はコース課と共同で行うことが望ましい。

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