コース設計アーカイブ
Archives of Golf Course Designing
管理費削減につながるコース改造とコース管理の要点
初秋の頃茨城県北部の林間コースを視察した。ツーサムで食事付5000円を切るプレーフィである。事前の予想では価格に準じたコースコンディションという先入観があった。当日実際にプレーして私の予想は完全に覆された。コース管理のポイントになるベントグリーンは細葉で芝は直立に仕上がっていた。ボールマークもほとんど発見出来ない。ボールの転がりスピードも速い。フェアウェイはややマット状ではあるがターフ密度は高い。病害虫の発生もほとんど無くターフコンディションは良好だ。ティは洋芝であるが日照の悪い場所以外はほぼ合格点だ。問題はラフである。ほとんどがメヒシバ等の雑草であるが一部ブルーグラスが占領している。ラフは雑草を低く刈り込んであり、プレー上問題は無いが所々裸地が気になる。ラフの芝は粗放な状態で少し違和感を覚えた。後日年間管理予算をお聞きしたところ通常のゴルフ場の70%以下の管理費ということだ。ポイントを掴んだ管理方法に感服した。
昨今ゴルフ場の格差は顕著である。一部の高級・都市近郊ゴルフ場は、プレーフィの値下げ競争に巻き込まれること無く経営は安定しているが、それ以外の多くのゴルフ場はプレーフィの値下げ競争に巻き込まれ、コース管理に十分予算を計上することは無理である。売り上げが少ないゴルフ場において、各々のゴルフ場に合致した運営・管理がなされるのは当然ではないか。従来大多数のゴルフ場で行われている画一的な管理手法は過去の遺物となり、それぞれのゴルフ場の事情を反映した運営・管理方式に脱皮を図ることが肝要である。茨城県北部の林間コースは将来の人口減少に伴う、入場者の減少を迎えたときのコース管理の進むべき一つの方向を指し示しているのではないだろうか。
管理思想の共有
コース管理を計画・実施するにあたって必要なことは、明確な顧客満足度の向上を図る方策の構築である。そして管理要員全員の管理思想の共有なくしてはコース管理の成果も出ない。教育訓練と管理思想の徹底は、どちらが欠けても良いコース管理に繋がらない。
コースが美しく仕上がっている。そして快適なプレーが期待出来るコース管理、これはなにもゴミ一つない完璧なゴルフ場というのではない。従業員のマナーも含め、心の温もりが得られるゴルフ場である。コースをきれいに見せる演出としてコース改造と管理両面か らの取り組みが必要である。グリーンカラーとアプローチ、フェアウェイとラフの刈り込みラインに垂直の刈高の段差をつける刈り込み方法は、プレーヤーに美しい芝刈りラインとして認知される。また、グリーン周辺の環境改善は間伐と周辺造形を調和して行えば、美しく生まれ変えることが出来る。
コース改造とコース管理のポイント
・ティグランド
ティ廻りの生垣、日陰木以外の樹木は周辺に樹木があれば撤去したほうが良い。階段は特別の場合以外は取り除き、ティへはどこからでも行けるようにする。同時に周辺樹木も日照・通風改善のため思い切った間伐、枝抜きを行い、健全な芝の育成を図る。その結果病害虫、雑草に強い芝の育成が可能となる。ティ面積は日照通風が良好な場所では小さくても十分維持管理が可能である。ティ廻りの法面は乗用3連モアでの作業が可能な勾配とする。最近管理予算減から施肥量、刈り込み回数を削減する傾向があるが、削減は短期的にはターフに影響が無いように思われるが浅根化、ターフの密度の低下による芝の擦り切れ、耐病性低下、雑草繁茂等の障害が数年で現れる。回復には多大な時間と費用が必要である。施肥量は1回40g/m2(8:8:8)で年間4~5回、刈り込み回数は週3~4回が理想である。
ティ改造を行う場合のティ面積は年間4万ラウンドで500m2~600m2を標準とする。床砂はグリーン砂に準じた砂を使用する。床砂断面はサイド側10・厚、中央部20cm厚、中央部に暗渠排水Φ100を300mm断面で敷設する。可能ならティは一面が理想であるが、地形の制約がある場合でもティの数は出来る限り少なくする。そして常用管理機械が稼働できるスロープのティが理想である。
・グリーン及びグリーン周辺
グリーン周辺樹木は日照通風改善のため思い切った間伐、枝抜きを行う。環境改善はすべてに優先するものと考える。グリーン周辺の間伐はコースが殺風景になるとの懸念から反対も多いが、間伐箇所をきれいに造形して芝張を行った結果、逆にグリーン周辺が美しく生まれ変わったとの評判を得た。
昨今の地球温暖化に対応したベント管理方法が必要になってきた。ベント芝の成長期の春と秋の期間が短く、ストレス障害の出る夏場が長期に亘り続くので、更新作業、施肥・施薬計画の年間計画の調整が必要になってくる。改造グリーンの構造、床砂の選定はUSGAグリーン仕様に準じ決定するのが妥当である。乗用の管理機械が効率よく稼働出来るよう、グリーンカラー外側に肩を設けると管理をスムーズに行うことが出来る。バンカーとグリーンとの間にも同様な肩を設けることが望ましい。また、グリーンの退出口が隘路で芝枯損の現象が見られる。そのような箇所はハザードの位置変更が必要である。
・フェアウェイ、ラフ、バンカー
フェアウェイ管理の大きな問題は排水問題である。特に梅雨時期は湧水対策に頭を悩ます。最近、大型トレンチャーで芝面の水勾配方向に4~5m間隔で肋骨形に溝(H=500、W=80)を掘り、底部に暗渠パイプを敷設し、中に砂を充填する方法でフェアウェイ、ラフの排水改善に大きな成果を挙げている。排水が本当に悪い部分だけの施工でも効果はある。
またフェアウェイにサッチ(刈込残渣)が過度に堆積すると病害虫の発生、排水不良、施肥・施薬の効果がなくなる。定期的な更新作業は管理中の基本であることを再認識する必要がある。施肥量は1回40g/m2(8:8:8)年間2~3回程度。刈り込み回数は最盛期週2回行いたい。密度の高い健全なターフ育成を目標とする。フェアウェイの刈り込みラインは直線を避け美しい曲線に心がける。
ラフとのエッジは双方の刈高が鮮明に分かるよう、モアのブレードは常日頃から研磨に心がける。平坦ラフの管理はフェアウェイに準じた管理が望ましい。法面、マウンド部の植栽樹木が成長しアレロパシーや日照不足で裸地化が進んでいる箇所は、思い切った間伐を行い日照の確保を行う。裸地は芝張り復旧する。またラフの芝刈りは乗用モアで極力行えるよう間伐を励行する。
バンカーを美しく見せるには、エッジ切りがうまく行われているかどうかである。砂面と芝面の差5cm位がベストである。フロリダのゴルフ場へ管理の見学に行った折、そのゴルフ場では1人の担当者に年間を通じてバンカーとカートパスのエッジ切り作業を任せていた。ゴルフ場は細部まで美しい印象を抱いた。