コース設計アーカイブ

Archives of Golf Course Designing

グリーンのデザインと芝生の種類

日本ゴルフコース設計者協会 理事 八和田 徳文

はじめに

日本にゴルフコースが生まれて百年余り。当初は芝でなく砂を固めたグリーンでしたが、昭和初期にはベントグラスの研究が始まり、昭和7年(1932年)に開場した東京ゴルフ倶楽部朝霞コース、廣野ゴルフ倶楽部広野コースは共にベントグラスを採用しています。ちなみにいずれもシングルグリーンでありました。 様々な環境変化もあってその後暫くは高麗芝中心の時代となり、ダブルグリーン等によるベントグラス、高麗の両方使用する時代を経て、昭和後期には再びベントグラスシングルグリーンの時代がやってきました。現在はゴルフプレーの観点からダブルグリーンをシングルグリーンに変える(戻す)ケースも増えてきておりますが、これはベントグラスの品種改良とメンテナンス技術の向上や管理機械の発展があってこそ叶うものでした。 現在でもベントグラスの代名詞といえばペンクロス、と言われるほど採用率が高い品種の登場は1954年。当時のグリーンの刈高は6mm程度でありましたが、グリーンスピードを求めると同時に、より低刈りに耐える品種の開発が必要となり、1980年頃から次々と新品種が上市され、現在では3mm以下の刈り高にも耐えうる品種が一般的となっています。また、それに追従するように刈込機械の進化もあり、その他の管理技術の向上も合わせて13フィート以上のグリーンスピードが叶うようにもなりました。ただし、このような高品質とされるグリーンコンディションも通年を通して維持できるものでなく、年に数週間程度の特別なときにのみ提供されるものであり、通常は9フィート前後が一般的であります。

グリーンの目的とデザインの検討

単純に考えるとグリーンというエリアの用途は、パッティングをするためのスペースであると同時に、その小さなエリアにボールを乗せるためのターゲットでもあります。ボールの進化やクラブの進化に伴い、ボールは真っすぐ遠くに飛ぶようになり、ターゲットを狙うプレーヤーの能力も向上してきました。それに対しゴルフ場はグリーン周りに厳しいバンカーやウォーターハザードを配することで難度を上げたり、距離を伸ばすなどして対抗してきましたが、ゴルファーの技量は一定ではなく、アベレージゴルファーにとって持て余すことが多いのも事実です。また、グリーン面積を大きくとり、大きなうねり(アンジュレーション)を多用することでパッティングの難易度を上げるデザインも増えてきましたが、これもまた同様の課題があるほか、多大なメンテナンスコストがかかる要因ともなっています。 スポーツとしてのゴルフの面白さと、レジャーとしての楽しさは似て非なるものだと考えますが、現在直面しているゴルフ環境に対応するべくグリーンの目的とデザインを見直す時期が来たのではないでしょうか。

グリーン面積の縮小

6月号でも若干ふれましたが、グリーン面積の縮小はメンテナンスコストの削減に大きく寄与することが出来るほか、今回のテーマであるターゲットとしての難易度を変えることが可能になります。既存のガードバンカーの配置や距離によってその変化に差異はありますが、低刈りエリア(カラーやアプローチ)の変化も含め対応することでその範囲は随分と広くなります。前述の範囲であれば土木工事を伴うものでなく一般的なコース管理の範疇で対応可能と考えます。 また、若干の土木工事を伴うことになりますが、ガードバンカーの移設や増設(場合によっては撤去)をすることで難易度の変化をより大きくし、目的にそぐう難易度に調整することが可能となります。

グリーンの芝種変更

現在主流であるペンクロスに、ニューベントと呼ばれる新品種のインターシードは一般的になりつつあり、高密度、耐暑性を向上させることで、夏場のコンディション維持もある程度出来るようになってきました。しかし、昨年のような異常気象では多くのコースでグリーンの芝密度が低下し、一部には裸地化したところもありました。 昭和初期から考えると相当なレベルアップを図ってきたベントグラス管理ではありますが、管理予算削減という障壁もあり、ベントグラス依存を続けることが賢明とは考えにくい状況も生まれてきています。 倶楽部の判断により2ベント化をせず、高麗グリーンを残してきたコースは、本来の目的であったサマーグリーンとして現在も高麗を使用しております。メンテナンス技術の向上もあり過去の遺産であった高麗は、疲労困憊したベントグラスよりコンディションが勝っていると考えられますし、なにより張替え等による相当な出費が発生しないことは倶楽部運営に大きく貢献していると言えるでしょう。 芝目の強い高麗芝を嫌うプレーヤーが増えているのも事実ですが、鳴尾ゴルフ倶楽部でプレーできると言えば喜ぶプレーヤーが大半ではないでしょうか。トーナメント仕様の硬いグリーンコンパクションをベントグラスで一般プレーヤーに提供することは困難ですが、高麗であれば同等の硬さやスピンコントロールの難しさなどショットに求める難易度を高めることが可能です。 もうひとつの選択肢としては、バミューダグラスの採用も検討に値すると考えます。ここ近年米国では、年数十のコースがベントグラスからウルトラドワーフと呼ばれている新品種のバミューダグラスに草種転換しています。旧来のティフ328などと比較して高密度であり、低刈り抵抗性も高いことからスムーズなパッティングクオリティーを維持することができます。 一般的なメンテナンスレベルのゴルフ場でも、夏季シーズンで無理なく3mm付近の刈高で、11フィート以上を維持しているコースも存在します。この草種も高麗同様にベントグラスの弱くなる夏季に高品質維持が可能であること、米国トランジッションゾーンの冬季ではウィンターオーバーシードせず使用できている事実にも注目すべきでしょう。

グリーンのデザイン変更

グリーンの目的として、パッティングをするためのスペースとして先に触れましたが、デザイン変更は土木的要素を含むものであり、それなりのコストがかかるので最後の検討事項としてここに送りました。 たとえばパッティングの面白さ、難しさとは何でしょう。30メートルもあるロングパットで幾つものうねりを越えたり、何段も登ったり下ったりさせることでしょうか。それとも概ね平らで真っすぐなラインの高速グリーンでしょうか。これは好みによるところもあるので一概には言い切れませんが、若干きつめの傾斜があり、横や下りのパッティングで考えたり、緊張したりするのも面白さではないかと考えています。 若干小さめで若干きつめの傾斜や、周辺のマウンドやバンカー群に連動したデザインのアンジュレーションのあるグリーンはパッティングの面白さだけでなく、グリーンをターゲットとして考えた場合においても変化があり、美しく、面白いものになるでしょう。いけいけどんどん、飛ばしてなんぼのゴルフから、もっと深いところのゴルフの面白みを提供するのもゴルフコースの役目であり、ゴルフ設計家がお手伝いできる範疇だと信じています。

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