ゴルフコース
それがもたらす地域社会や環境への恩恵
十分に検討されて設計されたゴルフコースは、地域社会や環境にとって有益なものです。ここでは、環境全般に対するものと、ゴルフコースの持つ固有の特性に焦点をあててみることにしました。
近年は環境保全に対する意識が非常に高まっています。今日の社会は、以前に比べて格段に情報量が増えており、環境や天然資源の問題について素早く反応し、コース設計のみならず、あらゆる場面にプレッシャーとしてのしかかってきます。これら環境保護活動は、急増する世界人口と、その結果としての都市化に多く起因しています。
都市化に伴う関連需要は、水道、電気、ガス、さらには住宅、リクリエーション施設の供給など多岐にわたります。なかでも観光事業は、リクリエーション施設開発の最先端にあり、環境保護活動と背中合わせの関係でもあるのです。
もし、こうした開発が現在のペースで続くのであれば、より良い環境を維持していく開発を促進し、管理していくことが絶対に必要になってきます。天然資源(環境)の保全と管理が重要であると同時に、これら資源に対する認識と定義をしっかりと確立することが大変重要になってくるのは当然でしょう。
ゴルフコースが、わが国固有の動植物を保護し、保全する役割を果たしているという点について、自然保護主義の方々や野鳥の会などからは、近年とみにその評価を高めています。当協会が世界中の環境問題を解決することは難しいとしても、協会会員全員が各地域レベルのこうした問題に取り組んでいく、重大な責任があると認識しています。
ゴルフは環境を維持し続ける―優れた設計のゴルフ場とは
1.野生生物のサンクチュアリー(保護区域)となる
ゴルフコースは、その境界内が“野生生物のサンクチュアリー”となりうる特別の区域です。このサンクチュアリーは、野生の鳥類、動物、植物の多様な生態系を育み、その地域のエコロジーをより豊かにしています。ゴルフ場の多くは、非ゴルフプレイ区域(自生の草、樹木、潅木からなる広大な自然景観エリア)があり、敷地全体の65パーセントを占めていることからもそれは明らかです。
比較的繊細な固有種の生存競争を取り除いてやるために、雑草防除を行うなど適切な方法を通して、注意深く管理し、望ましい棲息環境を積極的に促進する必要があります。より広い意味では、特に都市部との関係において、ゴルフコースはそのひとつ一つが、地域をつなぐ線の鎖の「環」の役目を果たすことはいうまでもないことでしょう。
“野生生物のサンクチュアリーは動植物を保護する”
2.都市環境内のオープンスペースと生き残っている埴生を守る
オーストラリアには約1,500のゴルフコースがあります。その多くは都市の中にあり、およそ10万ヘクタールを占めています。これは大都市・メルボルン市に匹敵する広さになります。
都市公園がコンクリート舗装で覆われている中で、ゴルフコースがオープンスペースとして確保されていることはきわめて貴重です。なぜならば、ゴルフコースの多くに生き残っている固有の植生にとって、その保護育成に大いに役立っているからです。
オーストラリアのゴルフコースの多くは、周辺緑地帯や、禁猟区、湿地帯、森林、野生生物サンクチュアリーなどのパブリックスペースと隣壊していることから、動植物を保全し、豊かにしています。
いってみれば、敏感な自然環境と、都市や工業地帯との「緩衝地帯」なのです。
3.表土を劣化から守る
土壌の劣化は、酸化、塩化、浸食などさまざまな形で表われます。
オーストラリアの一部は、貧土にもかかわらず、長年の貧困な農業慣行のために何百万立方メートルもの表土が流され、吹き飛ばされて水路や潮へと運ばれています。
表土は、環境の均衡を保つために不可欠であるばかりでなく、林業や農業に必要不可欠なものです。しかし、すべての天然資源がそうであるように、表土の保全は持続的に管理されなければなりません。
なかでも植生を守ることは、土壌の保全管理に重要な役割を果たします。とくに芝は、水の浸食力を抑制しています。密な根と発芽組織が、かやぶき屋根状の有機的な層を形成し、それがフィルターの役目をも果たして地表への水の流出を遅らせ、当然表土の喪失も防いでいます。降水量が60〜70mm(毎時)という雨季でも、芝生地は農地の20倍も土壌の保持をしていることが調査でも明らかです。
4.水資源を守る
ゴルフコースは水資源の保全を助けるばかりか、水の管理でも重要な役割を果たしていることは事実です。
芝生は、地中に吸収されずに流出する雨水などのフィルター役もしています。沈殿物や汚染物質が、直接水路へ流れ込むのを防ぐ働きをしていることを見逃すわけにはいきません。ゴルフコース敷地内に水を封じ込めることによって、洪水の抑制と、ろ過作用を助け、同時に滞留水層や地下水の再充填に寄与し、近隣の水路の汚染が防がれます。
5.採石場や鉱山跡、乱開発などで壊された景観を回復する
ごみ捨て場、採石場跡、不毛の農地などのように、景観が壊されたまま放置されている場所があります。
長年放置されて使い道のないと思われるような土地を、ゴルフコースに変身させ、再開発することができます。ゴルフコースは、劣化した土壌を再調整し、自然の組織循環を回復することで、健康な環境を造り出せるのです。
おそらくゴルフコースの一番の利点は、こうした捨てられたような土地を活性化させ、広範な地域を社会に還元していけることです。
“地域社会のための土地再生”
6.200万人以上のオーストラリア人のストレスを癒し、心身の健康を促進
する
ゴルフは、200万人以上のあらゆる年齢層のオーストラリア人に、屋外でスポーツする機会を提供しています。
1ラウンドで平均7〜8キロを歩きますから、これだけでコレステロール値が下がります。加えて、意のままにならない小さな白球を追いかけている間に、無意識の内に自然環境の恩恵を受けています。
快い風景は見る人の心を癒す、という研究発表もあるくらいです。例えば素晴らしい景観に囲まれた療養所の入院患者は、回復が早いということも知られています。
日々のプレッシャーから一時的にでも緊張を解き、ゴルフというスポーツの持つ力とあいまって、ストレスの多い現代人の心身のリフレッシュにゴルフコースは大きく貢献しています。
7.オーストラリア的景観を体験できることを増やす
オーストラリアの景観をひと口で述べることはできません。広大な大陸の中は、気候、地勢、動植物も非常に多種多様だからです。過酷な中心部から、北端部の熱帯的気候、そして南部沿岸の荒地まで、景観の性格も形も大きな違いがあります。
しかし、オーストラリア人も旅行者も、ゴルフを1ラウンド楽しむ間に、オーストラリア的景観が体験できます。だれにでもオーストラリアの自然景観を体験してもらうには、ゴルフコースはもってこいの場所でしょう。
8.空気を清浄化させ、気温を下げる
植生には私たちの吸う空気を作り、かつその質を向上させるというユニークな能力があります。
植物の光合成は、植物が二酸化炭素を消費して酸素に変えるプロセスです。研究によれば、180平方メートルの芝、草原、潅木、樹木が、優に人間一人の一年分の酸素を作るというのです。従って、平均的ゴルフコース一つが毎年約4,000人分の酸素を供給し、維持していることになります。
また、芝と樹木には、その一帯の熱を下げる効果もあります。ビルや駐車場の周りに木を植えれば、心地よい環境を楽しみながら、冷房費を節約できるという一石二鳥の利点になります。
9.排水、豪雨、都会の表面流水による水路への負荷を減らし、水資源を
処理し利用する
飲料に適した水(ポータブルウォーター)を利用するゴルフコースの灌漑は,特に注意を払わなければならない問題です。
ゴルフコースの持続性を考えていくと、代わりの水源を求めるだけでなく、より効果的な水の利用・管理方法を追求することが必要になってきます。例えば二次的処理済の排出水を使えば、「上質」な芝の維持に必要な栄養の70%までが供給されるという余得もあり、化学肥料の使用を減らすことにもつながります。
ゴルフコースの排出水や雨水をろ過して、流出水を管理していくことを考える時期にきています。
10.美しい自然環境と、地域の環境問題に対する実地教育の場となる
ゴルフコースは、コース内に多様で豊かな生態環境を擁することで、環境向上に大いに役立っています。
湿地のような大切な生態系があるところでは、ゴルファーにとっても圧力団体にとっても、実地の教育施設という意味では貴重な資源となっています。湿地という生息環境が多種の渡り鳥、固有の動物、魚、昆虫、植物の生態系を維持しているのですす。ガイド付きのウォークに参加すれば、ゴルフコース内の環境問題のみならず、その周辺地域という、より広い領域についての豊かな生態系についても知ることができるでしょう。 |