日本のコースに正しい改造論議が欲しい
西澤忠
先頃、アメリカの職人肌コース・デザイナー、ピートダイの自伝(Bury Me in a Pot Bunker)を翻訳して分かったことは、“プレーヤーが常に挑戦しがいのあるコースを造るのが設計家の使命”と考えていることだった。だから、ダイはボールの飛び過ぎを憎んでさえいる。
例えば、1950年のUSオープン。アメリカの誇る名コース「メリオン」の18番、458ヤード・バー4の第2打に、ペン・ホーガンが1番アイアンを使ってグリーンに乗せ、“価値あるパー”を獲得、翌日のプレー・オフを制して優勝したエピソードについて、ダイはこう言うのだ。
「いいか、ペン・ホーガンがドライビング・アイアンでグリーンを狙ったそのホールを、1971年のニクラスは4番アイアンそして現在のボーイども(若手プロのことをダイはそう呼ぶ)は7番アイアンで打つんだぜ!ボールとクラブの進化が偉大な古典的なコースを使用不可能にしちまうんじゃないか!」だから、自分は世界のトッププロ達に刺激的なタフ・ホールを設計するんだとでもいいたげなのだ。
確かに、プロの技術レベルの向上とボールやクラブの進化は相乗効果を上げている。ジョン・デイリーやタイガー・ウッズのような破壊的な飛ばし屋の出現がトーナメント開催コースを“ガリバー王国”のコースのように小さくしている。
マスターズを開催する「オーガスタナショナル」にとっても、タイガーの優勝スコア262、18アンダーはショックだっただろう。15番、500ヤードの第2打をピッチング・ウェッジで打たれては、ボビー・ジョーンズとマッケンジー博士の設計哲学も台無しという他ないからだ。そこで、マスターズ委員会は恐らく100回以上の改造の歴史に加えて、タイガー対策を考え始めているようだが、抜本的対策には至っていない。ラフ・エリアを作らない思想には手をつけられないからである。
USGA(米国ゴルフ協会)も黙っていられないようで、ボールの初速制限だけでは対処が難しいと判断したらしく、今後はクラブの“スプリング効果の禁止”を打ち出そうとしている。
今年のUSオープンの会場で、モーガン・ティラー会長が「インパクト時点でスプリング効果を持たせることの禁止」(附属規則4−1e)を見直し、なんらかの規制数値と測定方法を検討すると発表したのだ。
しかし、少しでも飛ぶクラブを作りたいメーカー側に対して、一度法廷で負けているUSGAには、USオープンのコースを4〜5年前から決めて、改造する方法論は残されている。1951年のオープン・コース、「オークランドヒルズ」をR.T.ジョーンズ・シニアに改造させて、“モンスター”とホーガンに呼ばせるまでのタフさに仕上げた方法は今でも続いている。今年の「オリンピック」とジ・オープンの「ロイヤル・バークデール」の優勝スコアが期せずしてイーブン・パーだったのは、USGAとともにR&Aも同一の歩調をとっている証明ではなかろうか。つまり、ピートダイが嘆くようなボールの飛び過ぎに歯止めをかけるには、コースをタフに改造するか、コース・セッティングの仕様をタフにするしかないのが現状なのだ。
翻って日本の場合、コース改造が真剣に討議されている気配はない。ここ数年の間に、戦前からある社団法人制の名門倶楽部がコース改造する例が散見されているが、そのほとんどはグリーン周辺の改造。メンテナンス技術の進化で、ベント・ワングリーンのコースが常識化したので、古い倶楽部がやっと腰を上げたに過ぎない。
その他のコースでも改造といえば、プレーの進行が渋滞するホール改造とか、乗用カート道路の新設だったりで、改造設計を検討する領域には至っていない。
「改造設計はオリジナル設計者の哲学を破壊することになるから、私はやりたくない」とピート・ダイはこの問題から逃げるが、ブーム期に粗製濫造されたと言われる日本のコース界では、ぜひとも正しい改造設計論が討議されてほしい。
オリジナルの設計哲学を殺さず、時代のニーズに合ったリデザインとはどんなものか?300ヤード平均の飛距離を持つプロにロング・アイアンのテストができるホールはどんなデザインがベストか?論議のテーマはいくらでもあると思う。
そして、その論議の方向はゴルフの本質を外れないものであって欲しいものだ。“ゴルフの本質”とは、“伝統と慣習に反しないこと”…、この一語に尽きるのである。 |