厳しい経済状況の中、ゴルフ場経営の第一線で陣頭指揮をとられ、苦労を背負って立っているのが各クラブの支配人の方々である。ボードとメンバーの間で孤軍奮闘する支配人達は、現状のゴルフ場運営をどのようにしておられるのか。そしてこれから何をしなければならないのかと自問自答をくり返しながら毎日を送っているのではないだろうか。
そこで今回は、日本ゴルフ場支配人会連合会会長である松本秀夫氏(横浜CC支配人)に、その問題点をうかがうことができた。大変な勉強家であり、貴重なお話しが得られた。
■現在ゴルフ場の抱えている問題点は?
経営上の問題と大きくかかわることになりますが、入場者をどうやって確保するかということにつきますね。しかし、これと裏腹の関係になるのですが、入場者のエチケット・マナーの乱れに対して、どう対処していくかということも大きな問題点としてあります。
プレーヤーの方々にはじゅうぶん楽しんでいただけるよう、従業員にはいろいろ工夫をさせていますが、エチケットとマナーの乱れを、クラブとしてきちっと対処していかないと、せっかくの努力も台無しになってしまいます。クラブとして矜持をもって対処することが必要でしょう。
これにはクラブ経営側も、入場者の数ばかりを追うのではなく、クラブ全体のこととして大きく考えていただき、費用以上のサービスを提供して満足して帰っていただく姿勢が大事でしょう。その代わり、毅然としてエチケット・マナーを守ってもらうという努力が欠かせません。
■エチケット・マナーの乱れは確かに話題になりますが、プレー費の問題も取り
上げられますね。
私のクラブではビジターフィーを値下げしました。その分メンバーの年会費を値上げさせていただきました。会員総会で私は突き上げられましたが、クラブを愛しているなら自分のクラブヘの最低限の協力はしてくださいと申し上げました。メンバーがプレーしやすいクラブにするべきですから。
支配人会そのものが、そのようなことを取り決める場ではないのですから、と申し上げています。「ビジターフィをここまで下げました。どうぞいらしてください。ただし、多くの方に楽しんでいただくために、これだけのことは守ってプレーをしてください」というのが本筋ではないでしょうか。このあたりのことをきちっとして、クラブ運営にあたることが支配人会の重要な役割になると思います。
■いろいろご苦労が多いと思いますが、コースの健康は満足いく状態にあります
か。同じように経年したコースが多いと思いますが。
おおむね悪くないと思いますよ。芝の研究もどんどん進んでいますから、きちっとメンテナンスをしていれば良い状態が維持できるようになりました。ですからコースに対しての優しさがあれば、コースは健康でいられるのではないでしょうか。
ただいえることは、昭和40年代にオープンしたゴルフコースの多くは、あまり海外のコースの情報が無く、コース設計に対する概念も確立されていない。あえていえば、「ゴルフコースに対する哲学」不在のまま、日本独特のゴルフ風土の中で造られた傾向があります。
現在のように、ゴルフ用具の進歩が激しい時代に、原設計ではついていかれなくなっているところも、出てきているのではないでしょうか。
関東周辺を中心としたコースでは、ツー・グリーンという世界では珍しい形態がよしとされたり、ミスショットをしてもその罰を受けなかったりなど、もっとゴルフというゲームの本質を理解した上で、改造を考えてもよい時かもしれません。
経営的には難しい時期ですが、今後のクラブ運営を考えたら、ゴルファーに楽しんでもらえるコースにしていく努力は、日頃から支配人として忘れてはいけないこととなるのです。
■ところで、今度横浜カントリーでは大改造の計画があるとうかがいましたが。
オーナーがゴルファーなのですね。ゴルフに対して愛情があるのですよ。常日頃おっしゃられているのは、メンバーが10年も同じコースで続けてプレーしていれば用具も進化し、技術も上がり飽きがきてしまう。だから10年スパンで手直しが必要なのだそうです。40年経った今、大改造に踏み切るのはご自分がゴルファーで、ゴルフを愛しているからなのでしょうね。
理事会などで随分追求されましたよ。「何でこのご時勢に」つて…。「コウライとベントがあっていろいろなバリエーションが楽しめていいじやないか」と…。
しかし、そうではないのです。ゴルフ場経営をロング・スパンで考えたとき、芝の改良も進み、メンテナンス技術も以前に比べ格段に上がっているからこそ、経済性を考えてもワン・グリーンにすべきなのです。質の違う二つのグリーンの面倒をみるより、一つのグリーンを愛情もって面倒みるほうが質的にも経済的にも有利です。ゴルフ場の経営上、メンテナンスを含む人件費が大きなウェイトを占めるのですから、これからの長い時間を考えると、絶対的なポイントになります。
世界の常識からしてもやはりワン・グリーンでしょう。コースの戦略性を考えても、そうあるべきだと思います。
■ティリングハスト(バルタスロールGC、ウイングフットGC等の設計者)などの
著作には、設計者は20年、30年、50年後のイメージをもって一木一草を考え
ろ、ゴルフ場は育つものだし、育てるものだといっていますが。
おっしゃる通りです。思いつきで造るものではないですね。ゴルフというプレーを理解していれば、ハンディキャップ24〜25を念頭にコースを造れなどという発想は出てきません。スクラッチプレーヤーもハンディキャップ25の人も同じ条件の中でゴルフを楽しめる、そんなゴルフコースでなければ存在の意味がありません。
「子々孫々に美田を残さず」ということをいいますが、ゴルフコースだけは「子々孫々に美田を残せ」であるべきです。広い土地を使っている責任でもあり、人類の資産なのですから。
■メンバーの方々も、そのような気持ちでコースに対する愛情をもって、プレー
してくれるといいのでしょうが。
メンバーだけの問題ではありませんね。経営者がこのクラブはこのような考え方で運営しており、先行きはこのようなコースに育てていくのだということを、きちっと伝えていくことも大切です。経営を委託されている側と、メンバーのコミュニケーションがやはり大事です。
プライベート・クラブなのですから、メンバーの方々も協力してより良いクラブにしていくという、いわゆる「マイ・クラブ」という雰囲気をもったクラブにしなければなりません。
■既存のクラブが今後どのような点に留意していかなければならないか、改造な
ども含めポイントをお聞かせください。
改造に関しては、やはりコース設計のプロの意見を聞くことです。メンテナンスを考えたノウハウを持っているのはプロの設計者とそのスタッフですから。クラブ側と設計者が徹底的に話し合って実施すれば、後世に誇れるコースが残せます。
もう一つ、これからは年配の方に優しいコースを念頭に置くことも大事です。ハウス・キャディの問題と乗用カートの導入は充分検討する必要があります。自分の目で見、自分の判断でプレーするのがゴルフ本来の姿です。キャディがつかなきゃと怒るより、プレー本来の楽しみ方をもう一度考える良い時期でしょう。
気をつけなければいけないのが乗用カートのスピードで、思った以上に速いのです。電磁誘導型式のものでも時速10kmはでます。年配の方には意外に危ないスピードなのです。コース改造と乗用カート導入にあたってはこの点も考え、カート・パスのとり方やインター・ポイントのとり方などを慎重に検討することが必要でしょう。
どちらにしても、ゴルフクラブに関与するメンバー、経営者、従業員が、ゴルフに対し強い愛情をもってクラブを育てていく気持ちの大小で、すべてが決まるのではないでしょうか。「愛情」が問題点の解決につながり、今後のより良いゴルフ・ライフをつくり上げるポイントになります。
お忙しい中、貴重なお話しをうかがわせていただきありがとうございました。各ゴルフクラブの今後の発展のため、支配人の方々の努力がますます大事になることと思います。ご健闘をお祈りいたします。
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