原設計/ 藤田 欽哉
改造設計監修/ 大久保 昌、山賀 敏夫
これまでコース改造に取り組むゴルフ場を見てきた。改造理由は様々である。いずれにしてもコースの経営サイドが明確な問題意識を持ってゴーサインを出していることには違いはない。それなりの予算をかけ、工事方法を吟味し、的確なディレクターを得て計画を進めコースのシェイプアップという目的を果たしていく。
ゴルフ場として名声もあり、交通のアクセスも良く、実際、首都圏のゴルファーの評判も、またメンバーの支持も篤い。そんな“A級”のゴルフ場においても、慧眼のある経営サイドは、やはりコース改造ないしは改修を進めていく……。
今回取り上げた東松山カントリークラブもそのようなコースの一つであろう。開場は昭和38年(1963年)11月。先の東京五輪の1年前のこと。設計は日本ゴルフ史に設計者の系譜としてレジェンドと目される藤田欽哉氏。霞ヶ関カンツリー倶楽部東コースの設計及び創設者として知られるが、何より名匠井上誠一氏を育てたことでも知られている。
そのレジェンドが武蔵野の松林のなだらかな丘陵地に18ホールをレイアウトしたのだから、その成功は当然の帰結であったかもしれない。ただし開場から24年を経て、かねてからのバブル経済の影響かゴルフ人口が激増。コースの入場者を確保するために9ホールの増設に踏み切っている。増設の9ホールをアウト9ホールとミックスし、「西」と「中」の二つのハーフに組み替え、インは「東」となった。
結局この増設は入場者増に対応するということでの目的は達せられたものの、藤田欽哉の原設計にはマッチしないものにもなったといわれている。これも当然の話。
東松山にはこうした経緯があるのだが、現状のようにゴルフ人口が減少し、ゴルフ場淘汰の時代となるに及んで経営サイドは「早くから問題意識をしっかり持っており、戦略的、長期的に考えて対応」とばかり5カ年計画を続けてきた。すでに2次まで終了し、平成26年には第3次5カ年計画がスタートしている。この「ハザードの再配置計画」は7月に理事会の承認を得た。
基本設計を大久保昌氏に、現場ディレクターは山賀敏夫氏
こうした計画に対する東松山のアプローチは丁寧。3次ならば「ハザード再配置検討特別委員会」で「自然を生かした戦略性の高いコースの整備」を目的とし、大久保昌氏の基本設計をもとに、山賀敏夫氏の設計コンセプトを確認、予算を含めて精査。その上でゴーサインを出している。
この計画の背景には、ボール、用具の進化による飛距離アップに対応すべく、より戦略性を高めるためのハザード配置の見直し、および距離延長のためのティグラウンドの見直しが必要となり、同時に一部防球対策のためのティグラウンドの見直しにも迫られていたことである。
こうした問題意識を前提に、大久保氏は原設計とのバランスを考慮しトータルのコンセプトを、山賀氏は個々の問題点をディレクションしていく形となっている。
基本コンセプト@ティグラウンド
- ショット方向の視野を妨げないよう既存のティグラウンドを下げて全体のバランスをとる。
- ティグラウンドの位置も全体のバランスをとり統一感をもたせる。
- ティグラウンドに立ったときの景観を高める。
- 面積はコースレート査定基準の概ね100平方メートル程度を前提にそれぞれの使用割合を考慮する。
- 改造後のチャンピオンティの距離は以下の通り。東・中6,970ヤード(現行+51ヤード)、中・西7,045ヤード(同+86ヤード)、西・東6,889ヤード(同+85ヤード)
基本コンセプトAバンカー
- 形状は役割とともに景観を重視。
- バンカーの新設はIP250ヤード〜270ヤードを目安とし、打ち上げ打ち下ろしを考慮。新設に伴い不要となるバンカーを無くす。
- バンカーはミスショットを捕まえるだけでなく、ショットの方向性を示す役割もあるため、できるだけ砂面が見えるようにする。
基本コンセプトBその他
- 打ち上げなどにより、ランディングエリアが見えない場合は、フェアウェイライン刈込み及びマウンド、樹木の配置により、ショットの方向性を出す。
以上の基本コンセプトをもとに山賀氏は東5番、中2番、3番、6番、8番、9番、西2番、3番、5番、6番、9番の各ホールを改造していくが、「施工にあたっては現地での最終調整が必要になる」(山賀氏)と、あくまで図面だけでなく現場の“眼”を重視。これも仕事の丁寧さの表れであろう。
平成9年から続く改修、改造工事でコースは生まれ変わってきた
大久保昌氏、山賀敏夫氏の「共同改修」であるハザードの再配置工事は、この8月から開始して、とりあえず西コース5番ホールの打ち込み防止工事は9月に終え、全体工事は来年の3月までに完成予定だが、機械部隊と仕上げ部隊と分けて効率良く改造を計画している。
東松山の改造、改修は27ホール化の後、大久保昌氏の監修によって平成9年にベントグリーンをペンクロスからアート1号に改修し、同時にグリーン周辺のマウンド・バンカーの改修を行っている。
その後平成16年には西1番ティグラウンド工事。同時にレディースティ新設。
平成17年にはコーライグリーンのベント化(コーライからL93)工事と同時にグリーン周辺のマウンド・バンカーの改修。
平成17年〜18年の特別事業として中8番のブラインド解消工事。マスター室からスタートハウスへの景観改良の他、ドライビングレンジの改修工事、アプローチ練習場の改修工事、スタートハウス新設工事……などを行っている。
平成18年には練習グリーン(Lグリーン)の改修を行い、20年にかけてはカート道路・女子ティグラウンド改修を行っている。こうした改修は「大久保昌氏と山賀敏夫の計画プランに基づき、2、3年に一度のペースとコース側の計画によって少しずつ進められてきた」(山賀氏)
東松山の強みはメンバー、ゴルファーの信頼が大きいということだろう。もちろんコースの良さというハード面と従業員の好感度抜群というソフト面の充実の賜物であることは疑いのないところであるが、経営トップの絶えずコースを良化していこうという熱意が、こうした信頼を生み出していることは忘れられない。
ただ単にゴルフ人口の減少や、少子高齢化に臍を噛んでいるだけでなく積極的にコースの良化を図る。それにはコースを熟知した監修者を得ること。東松山の場合、大久保昌、山賀敏夫両氏という両ディレクターを得ていることが、将来への展望を明るくしているといえまいか。
(文責・井口紳) |