原設計/ 宮沢長平
改造監修/ 佐藤謙太郎
栃木県の宇都宮周辺といえば関東圏でも一、二を争うゴルフ場激戦区。この中で他コースとの差別化を図り、それなりの収益をあげていくのは並み大抵の経営努力ではない。ゴルファーの絶対数が減少し、しかも交通アクセスの状況も既に整備が終了しており、現状より“近く”なることもない。
となればゴルフコースとしての魅力を高めゴルファーからの信頼を得ていくことに活路を見出すしかないのだが、ここにコース改造の意義も出てくる。
今回取り上げたのは宇都宮ガーデンゴルフクラブ。1996(平成8)年10月にミサワガーデンゴルフクラブとしてオープン。その後母体の民事再生法申請を経て平成18年に宇都宮ガーデンゴルフクラブとなり、平成21年9月から現在の韓国系資本(姜翔復代表)の経営となっている。
何よりオーナーとの信頼関係と綿密な意思の疎通……
コースは96万平方メートルの用地に場内高低差15メートルという抜群の地形を活かしプレーヤーの評判もそこそこ。年間4万人以上という入場者もまずまずの数字。
営業的にも朝のスタートでは冬場は鯛焼き。夏場はカキ氷(予定)のサービスが付き、昼食時には“本場キムチが食べ放題”を実施し好評を得ている。
しかしそれだけでは、この激戦区で生き残ってはいけないとオーナーが考えても無理からぬ所。こうした営業努力と同時に、コース全体の抜本的な見直しをし、多くのゴルファーから支持されるゴルフコースにする。それによって入場者を確保し、経営基盤を盤石に……というのが経営サイドの考え方だろう。
さて、改造・改修にはディレクターが必要。ここで韓国内でも数コース手がけ、姜会長とも知己があった佐藤謙太郎氏に話がいった。「韓国テレコム関連事業と経営母体として信頼がおけるし、また姜会長のコースに対する熱意も感じ、予算云々はさておき喜んで話を受けた次第です」と佐藤氏は語る。
佐藤氏が今回の改修において第一に考えたのは、「低コストによる改修によって、雄大で美しく戦略的コースへ変貌させる」(佐藤氏)ことだった。
佐藤氏の基本姿勢は以上のことで、できるだけ費用をかけず、通常の管理スタッフの下で進めていく……というものだった。
「これは管理スタッフの啓蒙と、仕事への理解と熱意を育てることにもつながる意味もあったし、よりコースに対する愛着も湧いてくる」(佐藤氏)。
コースは美しくなければプレーヤーの共感はない
具体的な改造作業は2016年の1月から始まった。
コース内には「20周年記念コースリニューアル工事のお知らせ」と銘打ったスローガンが随所に掲示されている。
工事内容は
○ 各ホールハザードの見直し・バンカーの改修・池ラインの改修
○ コース内樹木の整備伐採・日当り、風通しの改善・樹木の再生・景観の向上
○ コースコンディションの向上・スルーザグリーンの状態向上・グリーンのスピードアップ・コンパクションの改善……
とあり、プレーヤーの協力を仰いでいる。
このスローガンは姜オーナーの名で発せられており、プレーヤーにも当たりはいい。自分のひいきのコースが良くなっていくのは気持ちのいいものだ。
「姜オーナーとじっくり話をつめ、宇都宮ガーデンをどういうコースにするかをつきつめました。で、数字にもシビアですから、私としてもなるべく費用をかけないで、外注などせず、内部で作業を進めていく方法をとりました」(佐藤氏)
メンテナンス、管理業務のスタッフは6名。これに臨時も加えて夕方の1時間を作業時間として進めた。初年度の作業はスローガン通りだが、「主改善項目は1にバンカーハザードの見直し、2に樹木林帯の整備伐採、3にコースコンディションの向上でした」と佐藤氏。
具体的な作業としてまずバンカーハザードの改修では、経年劣化によるバンカーエッジラインの変更改修とその管理方法の指導。
このとき特に留意したのは“美しさ”だった。コース内から“きたなさ”を無くし、美しく見映えのあるものに変えている(画像参照)。
この美しさに対する思いは樹木林帯の整備伐採にも活かされている。例えば長年大事にしてきた大木を除去することにより、「芝への通風、日射を改善する。これはまた毎年の冬場の凍土による芝のダメージ張替等も未然に防ぐことになる。グリーンをはじめティ、フェアウェイの湿度、日光不足による障害もなくし、芝地のコンディションを向上させる」と
佐藤氏は語る。
たった1本の、年間10日間しか咲かない桜を大切にするが故に、木の下がベアグラウンドとなって、プレー上も見た目にも残念な状態になることは「防ぎたい」と佐藤氏。

管理スタッフへの啓蒙。作業でなく仕事とし、その楽しさを覚えて欲しい。
こうした実際の作業と同時に佐藤氏が力を入れたのは管理スタッフの教育だった。「長年予算を抑えられた管理作業下では改善個所に気づかないまま、それを改善する気持ちが薄くなってしまいがち」と佐藤氏。そうした作業が続いていけば、バンカーエッジもボロボロになりかねない。
こうした風潮を防ぐためには、日々の調査によって的確な予算の数字をオーナーに納得して貰うことが大切と佐藤氏。
「芝管理の具体的調査(透水係数の測定、グリーン刈カス量の測定、芽数の定期的チェック、グリーンスピードの測定、コンパクション変化の記録測定)を実施することで、実作業の結果を数字で把握できるようにし、芝品質の向上を促進させる。こうした姿勢なら、コース改善に意欲のあるオーナーならば予算の数字は出してくれるはず」と佐藤氏は語る。
となれば管理業務の仕事への意欲は高まっていく。
宇都宮ガーデンゴルフクラブの改造は今年始まったばかり、佐藤氏は「1年目はバンカーおよび立木の整備、2年目にグリーンの整備、800平方メートルを600平方メートルにしたいとの腹積もり」という。いずれにしても従業員の意識改革が進み、コース内の雰囲気が美しくなってくれば、集客に通じるところは大きいはず。
改造改修ディレクターの立場は、コース全体を眺める総合プロデューサーが本流になるかもしれない。佐藤謙太郎氏の“仕事”は、そうしたコース改造の未来図を見せてくれているのだろうか。
(文責・井口紳) |