原設計/ 井上誠一
改造設計/ 大橋一元
西宮CCは六甲山系の東端に位置し、昭和31年、井上誠一による関西初の設計コースとして開場した。都心に近いが、仁川の渓谷と六甲へ向かう道路で敷地を3分断された地形で、メインを高麗芝グリーン、サブにベント芝の2グリーン制を採用した。海抜220メートルの山岳地ながら、敷地面積は18万坪。しかし尾根や谷による有効な面積は16万坪という狭い地形に18ホールを配置した井上設計は絶妙だった。仁川渓谷をハザードとして採り入れ、高低差を戦略に活かすレイアウトは井上氏48歳の時の力作で高い評価を得ていた。
平成18年になって時代対応からワン・グリーン化改造に着手、高麗芝のメインの位置にベント芝グリーン新設した。改造設計を廣野GC元キャプテン・大橋一元氏に依頼、半年のクローズ期間で完成させた。大橋氏は昭和63年に廣野GCのベント芝化を経験していた。
改造時の会員権相場が完成後に倍額になったと評判を呼んだとか。大橋氏は甲南大ゴルフ部出身のトップ・アマで、「選手時代に世話になったクラブへの恩返し」としての改造設計は無報酬のボランティアであった。他にも加古川GC、芦屋CCのワン・グリーン化改造を手掛けている。
Q1. ベント芝1グリーンの全体的印象は?
<中嶋隆雄・協力会員>
500平方メートル以下のやや小さ目な砲台グリーンが多く、尾根やハザードに向けてのアンジュレーションがあり、グリーンを狙うショットに気を遣った。井上流設計グリーンとは違った味わいのある難グリーンだった。
<中田浩人・正会員>
(中田氏は大橋一元改造設計の測量、図面描きを担当、西宮CCの他に加古川CC1グリーン化改造にも協力した)
各ホールで、距離を長く取れないので、グリーンで難度を上げたと想像する。傾斜の強いグリーンで、ピン・エリアは平均面積550平方メートルの30%程度になった。
グリーン周囲のマウンドがグリーン面の構成を複雑にしている。山や川が近いので芝目が強かった。
以前は比較的狭いエリアに二つのグリーン(約350〜450平方メートル)を配したので、サブ・グリーンを外した跡地の処理は違和感なく、自然な姿になったと思う。
井上流グリーンではなくなったという会員と面白くなったという会員がいて、意見が二つに分かれた。私見だが、大橋設計グリーンは新しい魅力が加味されたと思っている。
<大西久光・正会員>
(関学ゴルフ部時代からの会員で、クラブ・チャンピオンを獲得した)
井上設計とは異なり、アベレージにはタフなコースになった。ただ、グリーン・エリアの地形をもう少し低くした方が自然に見えたと思う。
改造前に意見を求められた時、ベント芝のサブ・グリーンを消し、高麗芝グリーンをベント化すれば良いと申し上げた。今思えば、井上氏はいずれワン・グリーンになることを予期していたように思う。時代を先取りしていたのだろう。
Q2. ハウスから見下ろす3番(176ヤード・パー3)は左側に池のある名物ホール。グリーン中央の左右に尾根が横切る“レダン型”の起伏をつけたレイアウトについて意見は?
〈中嶋隆雄〉
ハザードに向かって奥に傾斜するので、ピン位置次第で右のバンカーが効いてくる難ホールになった。
〈中田浩人〉
面白いグリーンになったと思う。難を言えばもう少し前後にグリーンを伸ばし、フロント部分を2メートルほど池に寄せ、グリーン奥にゆとりを持たせたい。このレダン型グリーンといい、8番と13番のグリーンは大胆なアンジュレーションで、大橋氏の海外の名コース経験がグリーン・デザインに活かされたと思う。8番は中央に尾根を配した凸型、13番は斜めに溝が走る凹型と正反対のアンジュレーションを持たせたホールもある。
〈大西久光〉
昔の井上流設計のグリーンの方が西宮CCらしい自然らしさがあったと思う。
Q3. 大橋氏のグリーンは砲台型が多く、アンジュレーションは池やバンカーに向かって傾斜する。井上流グリーンは全体に受けた傾斜で、左右にマウンドを置いて複雑な傾斜を演出したもの。アリソン式を継承した大橋グリーンについてのご意見を。
〈中嶋隆雄〉
廣野GCの高麗からベント芝グリーンへの改造設計で、アリソン氏の原案アンジュレーションを再現したと聞く。この西宮CCの新グリーンにアリソン流な起伏を感じた。
……大橋氏は廣野GCキャプテンとして高麗芝グリーンのベント芝化設計で、C.H.アリソンのオリジナル図面を参考にして設計したと言われる。
グリーン前の地盤を下げて、グリーンを砲台式に見せる工夫や、グリーン上のアンジュレーションに周囲の尾根からの起伏を活かしたり、溝を走らせたりと多彩な高低差を演出した。その手法が西宮CCにも活かされたのだろう。
さらに大橋氏がR&AセントアンドリュースGCのメンバーであるだけに、英国の名コースを知ることで戦略的グリーンとは?の命題に独自の思想を持っていたはず。
井上流グリーンは全体に受けた傾斜で、左右にマウンドを配して複雑なラインを生むグリーン造形だった。英米の名コースを視察したのは彼の晩年で50歳を過ぎていたから、大胆な発想のグリーン形状にまでは考えが及ばなかったと思われる。そこへベント芝1グリーン化改造で、海外の名コースのような大胆な発想のアンジュレーションを導入したことは西宮CCが時代に対応した結果だろう。ベント芝1グリーンこそ世界基準に相応しいものなのだから。
ともかく、川や道路で3分割された16万坪の地形に、打ち上げ、打ち下ろしのホールを配置し、ベント芝グリーンが新設された西宮CCは新しいグリーンを持った。ほとんどのホールが砲台型で、左右や奥のハザードに向けて傾斜する複雑なアンジュレーションを持つ。まるで、正しいバック・スピンのかかったボールしか乗せさせないと言っているかのように。
これはその意味で、ドナルド・ロス式砲台グリーンで、ボールをグリーンに乗せるに難しく、外してもなお寄せるに難しいグリーンになったと言えるだろう。
(文責・西澤忠・名誉協力会員) |