水不足と環境問題が芝転換の主な理由に |
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佐藤(毅) アメリカでは今、水不足や環境問題を考えたコース改造が増えています。また、新しい芝生への転換、フェアウェイを含めた丈夫な芝の選定、育成という課題も水問題と捉えてよいと思われますが、実情はどうでしょうか。
戸張 アメリカの場合は水不足だけではなく、もともと井戸が掘れないという規制があります。それから、リサイクルウォーターを必ず使う、例えばカリフォルニアでは水が無いからリサイクルウォーターの義務付けというのがあります。そうすると当然病気が出やすくなるなどの問題があり、それに対応するため強い丈夫な芝生を開発する必要性が出てくるわけです。
佐藤(毅) これからは限られた水資源の確保と有効活用が、日米共通のテーマですね。日本でも多くのゴルフ場が散水に貯水池の水を使用していますが、溜まり水を利用すると病気を蔓延させることもありますが、芝の育成・管理に欠かせない散水システムについてお聞きしたいと思います。
嶋村 イリゲーションについては、見逃している点が一つあります。当り前のことですが、私は、水源確保と散水システムの導入とは分けて考えるべきだと思います。水は自然供給、運用システムはあくまで技術です。自然の水源の水をいかに活用するか、ストック、リサイクルも含めこの手法の活用が水源管理です。雨の少ないアメリカの西海岸沿いに計画された多くのゴルフ場を含めた施設が、毎年ロッキー山脈の雪解け水の供給を待つ如く、環境保全を前提とした水の確保と有効利用こそがコース管理上でも重要なテーマとなっていくでしょう。
戸張 日本でのスプリンクラー導入はそんなに古くないんです。具体的にコースの実情がどうなっているのか嶋村さんいかがですか。
嶋村 戸張さんのご質問は、毎年トーナメントを開催している私どものコースについて聞かれたのだと思います。実を申しますとそのコースのフェアウェイにはまだ自動散水システムが完備されておりません。現在導入工事を行っているところです。今までどうにかキーパーの努力で渇水期を乗り切りトーナメントを開催しております。日本にもまだ部分的に自動散水施設のないコースはありますが、そのコースが他のコースと比べて悪いのかと言ったら一概にそうとも言えないと思います。やはり管理者であるグリーンキーパーの能力と資質次第ではないでしょうか。
佐藤(謙) 基本的には最低限の水を有効に活用するような能力をグリーンキーパーは持たなきゃいけない、ということですよね。そのゴルフ場のレベル、あるいはプレーヤーの求めるクオリティに合ったコース管理をするための適正水量を知る必要があります。ゴルフ場は水が無ければ最低のクオリティを維持できませんし、最高のコンディションを提供するとしたらある程度の水量は必要です。しかし、そのゴルフ場のレベル以上の撒水をする必要はありません。それを見極める力を持つことも水不足解消の一つになると思います。
嶋村 これからは水質が重要な要素になります。よく言われますが温水や腐った水をいくら撒いても芝には逆効果ですからね。文献で読んだ話なんですけれど、芝の研究の進んでいるアメリカでは大きくテーマを芝の品質の向上と丈夫な芝の開発という二本立ての研究が中心に行われているといいます。その一つにハイブリッド芝としてコウライ芝が見直され種子研究も進んでいるそうです。日本の芝も見捨てたものではないですね。
佐藤(毅) そういったことも含めこれから設計者としてはいろいろな立場で指導していかなくちゃいけないということですね。
嶋村 皆さんご承知の通り、近代コースメンテナンスの前提は水管理だともいわれており、今後は散水システムの活用を前提とした芝の品質管理、つまり成果(クオリティ)の議論になるのは当然だと思います。日本で初めて本格的に自働散水システムを導入したのは私どもの軽井沢のオールベントのゴルフ場なのですが、当時、感じたことは技術概要書や各パーツの仕様書もすべて斬新でした。ところがいざ工事してみると、それぞれの装置は素晴らしいのですがスプリンクラーヘッドが全回転のみでパートサイクルがなく、ただ無駄に水を撒いていたという記憶が残っております。雨の日や、グリーン横の売店の屋根まで水をまいていました。また、あるゴルフ場でこれからは自動散水が重要だということで 2〜3億円の散水工事を最優先で行ったそうです。しかし翌年、異常渇水でそのシステムが活用できず、芝を枯らして問題になったというのです。補給対策も含めた渇水期間と水量想定の不十分さが原因でした。
日本のコースは易しい 改造で世界のレベルに |
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佐藤(毅) 次にアメリカでは、古い名門と言われるコースでも樹木の伐採が盛んに行われていると聞きますが、日本はどうでしょうか。
倉上 樹木に関して日本人は木を大変大切にしますので、1コースで何千本も切ることはあり得ません。ただ、ベントグリーンは日当りや風通しが良くないと健全に生育しませんので、樹木の伐採についても以前より寛容になってきているとは思います。芝の生育だけでなく大きくなった木がハザードを隠してしまうと、コースの戦略性をも失ってしまいます。
嶋村 よく木の下には芝が生えないといいますが、基本的には木と芝の生育環境は対立関係ですね。木を切ることは景観を損ねることだと間違った概念をもっているメンバーや経営者も多いようです。まず木を切るのはコース改造ではなくてコース整備ですよね。
戸張 だから伐採に対して一般的に100%拒否をする傾向が強い。特に日本でも名門コースなど、そのような方々に対しては是非皆さんちょっと考えてくださいと。つまり芝生は日陰では十分に生育しないし、木は植えた10年後にどれだけの大きさになるかは誰も予測してない。こんなに大きくなると思わなかったものが影を作り、芝の生育に悪い影響を与えるわけだから、そういうものに対しては伐採もしくは剪伐・剪定をするということに抵抗なくしていただければコースはもっとよくなるでしょう、というふうに理解を求めるべきです。
嶋村 日本にあるゴルフ場の既存樹木の現状を見る限り、整備をすべき時期に来ていると思います。特に1980年以降に出来たゴルフ場は要注意です。なぜならば役所の工事許可基準が一律に樹林を残すことであり、風道を全く無視した指導だったからです。北斜面の日影など、その影響で困っているキーパーが多くいるのも事実です。状況にもよりますが、伐採は芝が健全に生き残るための根本的手段です。一昨年全米オープンを行ったオークモントCCで5000本の木を切ったことが話題になりましたが、もともとリンクスデザインで造ったゴルフ場が林間コースの雰囲気になってきたので、全米オープンを機会に本来の姿に戻すために大規模に伐採が行われた。これにしても伐採するコンセプトが明確です。
佐藤(謙) グリーンはウェットが一番悪い。そのためには風通しを良くすることが重要です。理事会などにはそういう部分を改めて理解していただきたいと思います。キーパーに話をすると、「もちろんわかっています。でもウチでは切らしてくれない」ということが多いですね。
佐藤(毅) いままで皆さんから出た話は、コースの現状を見直す上で基本的なことだと思います。それでは具体的に改造意識を高めるにはどうしたらよいのでしょうか。
戸張 最近は日本のゴルファーも海外でプレーする機会が増えました。すると「日本でプレーするよりスコアが悪い」という話はよく聞きますが、海外の方が易しいというのはほとんど聞いたことがない。それはなぜかというと、やはり日本のゴルフコースは全体的に易しく作られているからでしょう。将来、日本のゴルフ場がアメリカに追いつこうと思っても、アメリカはどんどん改造して進歩をつづけている。そこに追いつくためには日本も同じように改造をして、ゴルファーのレベルを上げていくべきだと思います。全部がやる必要はありません。しかし2500のゴルフ場の10%なのか5%なのか分かりませんが、そういうコースが出来てこないといけない。
佐藤(謙) アメリカでは改造コースが増えているといいますが、今回は日本のための改造のススメですから、なぜ日本でも改造しなきゃいけないのかという部分をまとめた方がいいのではないでしょうか。当然ゴルフクラブにはそれぞれコンセプトや考え方がありますから、改造の内容はそれによって異なるでしょう。ただ、2500コースの一部は、世界に通ずるようなゴルフコースであるべきです。その場合、アメリカのトーナメント中継を見たり実際にプレーをして、やはりこのように戦略性の高いコースの方が面白いと日本のオーナーや役員が感じて「それでは改造しよう」という気運が高まっていくことが望ましい。そして日本のレベルを高めるにどういう改造をすべきかというと、僕はハザードの配置、全体の戦略性、時代のバランスなどに留意し、そのコースのイメージに合った改造をすべきだと思っています。
戸張 改造する、しないに関わらずコースのグレードアップについては設計者協会として幅広く提案し、ゴルフ場のオーナーや理事会に理解を求めていく必要もあります。東京ゴルフ倶楽部でも乾燥用に扇風機を5カ所立てたのですが、その後周囲の木の下枝を2メートルくらいの高さまで切って見通しを良くしたり、逆に高い枝を落として朝日が入り込むようにしたら扇風機は全く要らなくなった。もう一番わかりやすい例ですね。
難度は改造の重要ポイント ただし攻略ルートは複数に |
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佐藤(毅) 改造の大きなポイントとして難易度をあげることは確かに重要だと思いますが、この点について佐藤さんはいかがですか。
佐藤(謙) 僕の場合は、難しさをデーターベースで整理しており、例えばグリーンのアンジュレーションの場合は0がまっ平らだとして傾斜の割合を数字化していく。それで18ホール全体の難易度を決めて、各ホールにパールートやボギールートなどの攻略ルートのバリエーションを考えます。例えば3オン1パットでパーを維持する。2オンできなくてもセーフティゾーンがあるから全員に難しいということにはなりません。だから飛ぶ人や飛ばない人など、それぞれのプレーヤーに合ったルートが用意されているということが重要なんだと思います。
嶋村 コース設計の立場から難易度をあげることは難しいことではありません。我々はコースを難しくすることはいくらでもできます。たとえばIP(第一打のランディングエリア)部分の見直しや飛距離に対応した距離の延伸、ハザードによるフェアウェイの絞り込み、さらに最終ターゲットであるグリーンの大きさ傾斜、起伏を厳しくすればよいわけです。グリーンスピードの想定もこの範囲にはいります。問題はいま求められている難易度の程度の判断基準をどうするかが、今の改造理論のベースになるはずですが、アメリカと日本と大きく違うところは、アメリカはその改造理論が明確だということです。その背景に独自の考えを主張する若い設計家の台頭があるのではないでしょうか。確実にゴルフ界が育っている印象をうけます。当然改造理論をしっかりと聞く媒体もあり、冷静に評価し実践するスタンスも持っている。
戸張 僕が関係しているあるトーナメント会場で、最終18番グリーンの手前に深さ3メートル、壁はほとんど垂直のバンカーを作りました。一般の女性の力ではほとんど出せず、後ろに出してアプローチする人も多い。ですが不動裕理と三塚優子の2人がプレーオフとなり、2人ともそのバンカーからパーをとっていくわけです。出ただけでギャラリーからは拍手が起きるくらい難しい。でもそういうところが改造としては面白いポイントになる。そのようなポイントを18ホールの中に、今の時代に合わせてどううまく入れていくかということでしょう。
嶋村 あのトーナメントではグリーンのピンの位置次第で、一つのハザードとしてのガードバンカーの重要性がよくわかりましたね。
ニューベントで高速化実現 改造評価をメディアに期待 |
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佐藤(毅) コース設計の中に、グリーンの速さも加味されなくてはなりませんね。倉上さんは工事を通してグリーン構造やメンテナンス技術などを幅広く指導する立場にあると思うのですが、その中でグリーンスピードについてはどのようにお考えですか。
倉上 昭和30年代から40年代はじめはコウライグリーンが主流でした。当時スティンプメーターはありませんでしたが、当時のグリーンは一般的に7.5〜8.5フィート前後だったと思います。昔、ブリヂストントーナメントはコウライグリーンでしたが最高10フィートでした。それ以上速くするには芝草の茎付近までカットしなければならず、来年の芽出しに影響してしまうからです。昭和60年代以降になるとベントグリーンでは11〜12フィートが求められるようになります。そこでまず肥料と散水量を少なくして転圧を行いガラス面のように仕上げて速くする。しかし、大会終了後グリーンの回復が遅れ運営に支障をきたした例もありました。低刈りと転圧のストレスの対応に管理が追いつけなかった。しかしニューベントグラスが出てからは目数が多くなり刈り高は3.0・〜3.2・、スピードは11フィート以上で適正管理ができるようになり、グリーンの高速化が可能になりました。コース改造の背景には必ずメンテナンス技術の向上が並行してあります。日本の場合その点、改造意識が5年から10年くらいは遅れていると思います。先ほど言われた飛距離の増大、グリーンの高速化、用具の変化などを考えると、日本でもだんだん世界のゴルフコースがどういう方向を向いているか、テレビや雑誌を通して理解されてきたので、コース改造もこのようなことを考える流れになっていくのではないかと思います。
戸張 誰が改造にリベラルな評価を下すのか。アメリカやヨーロッパはメディアがしっかりしている。日本のような即席記者ではなく、ゴルフコースの評論がきちんとできる記者が存在しています。彼らはゴルフの知識も高く、ゴルファーへのインタビューもでき、コース評価もできる。こういう人が、誰がやった改造でもそのコンセプトを含めてきちんと評価していく。そして記者クラブが、今年行われたベストの改造をきちんとした形で紹介する。そうするとメンバーたちもそのコースの関係者も非常に喜んで成功したって感じになる。残念ながらそういう点で日本は遅れているのではないかと思います。
嶋村 確かにイギリスではバーナード・ダーウィンとか、アメリカでもゴルフについて一貫した見識を持った、真摯なご意見番が必ずおりますね。だから権威のあるゴルフ場ランキングができる。
佐藤(謙) その前に日本の場合はモラルハザードの問題があります。例えば日本の多くのゴルフ場には暫定ルールとしてプレーイング4や6インチプレス、ホール間の1ペナなどがあります。つまりルールに則った基本的なプレースタイルと、日本独特の悪しき"慣習"を一般プレーヤーの多くが混同している。今のゴルファーは「ルールもエチケットも知らない」と怒ってもある意味で誰も教えていないのだから当然かもしれません。そのせいか、ある改造で新たにバンカーを造ったら、難しくてプレーした3割の人には不評でした。しかし、世界的に著名なゲストが来てそのバンカーを評価すると、手のひらを返したように今度は自慢を始めました。
戸張 やはりメディアですよ。これからは協会として、メディアへの発信力を持つ必要があります。今回は特に良いチャンスだと思いますよ。
(次月に続く) |