ゴルフコースの樹木 |
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ゴルフコースは開場して20年から40年経過するとコースの樹木は大きくなり、枝が伸び過ぎてプレーに影響が出たり、葉が密集して風通しや日当たりが悪くなったりする。
コースの樹木はコース設計者の考えやクラブ、メンバーの思い入れもあり、コース管理の都合だけでは伐採できない。しかし、樹木の繁茂によりプレーに支障が出たり、病害、虫害が増えてターフコンデションが悪くなってゴルフコース本来の姿ではなくなる。
このマイナス要因を解決する為にはプレー、コース管理の両面から考えた多面的な対策が必要である。クラブはコース維持管理の将来を考え、樹木管理計画を立てるためにコース設計者が、グリーンキーパーやコース委員の人たちの意見を聞き、問題点を現場で検証する。ただ単に樹木を伐採することや、樹木の手入れを行わないなどは根本的な解決にはならないので芝草と樹木の在り方を考えた実現性のある樹木管理が必要である。
ゴルフコースは樹木の種類、本数によって雰囲気が変わる。樹木は夏の暑さを和らげ、冬の寒い北風を弱め、周辺の騒音も吸収し、傾斜地の崩壊を防ぎ、プレーの戦略的な空間ハザードの役目を果たし、四季の葉の色や花などが楽しめ心を和ますなどの効用がある。
プレーしやすいように、枝の剪定、間引き伐採、移植、次世代の木を植栽するなどの具体的な作業を行うことが必要である。
ティーグラウンド周辺の樹木、潅木 |
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古いコースではティー周囲に灌木類の垣根や周囲法面(傾斜面)に灌木が植栽されていることが多い。垣根があるためティーの出入り口部分の芝草が弱ったり、ベアーグラウンドになっていたりする。また、法面部は灌木があるため芝草管理が十分行われず雑草繁茂の温床になっている。ティーグラウンドの芝草は年間を通して良い状態に保ち、プレーをし易くするにはティー周囲の垣根や灌木は取り外し、どこからでもティーに上がれるようにすると芝草の痛みは少ない。垣根を取り除くことにより、芝刈り作業の効率も上がり、日当たりや風通しも良くなり、病害、虫害の発生も少なくなる。
フェアウェイの樹木とラフ両サイドの林帯 |
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ティーグラウンドからIP方向(第1打落下方向)を見たとき、フェアウェイの刈込み輪郭が見え、サイドバンカーや修景池が見えなくてはならない。樹木の枝が張り出ていてサイドバンカー、クロスバンカー、修景池(ハザード)を覆い隠しているときは、思い切って枝の強剪定を行って見える様にすることが必要である。
フェアウェイやセミラフにある樹木(マツ、ケヤキ、スギ、ヒノキ、クス、ヤマモモなど)は、葉や枝が密集しているとボールが枝に引っ掛かりやすいので、定期的に枝透かしを行いボールが引っ掛からないようにする。枝を透くことにより樹下にも日が当たり、ターフコンデションも良くなる。
ホール間の樹林帯は隣のホールをセパレートし、ボールの飛込みを防ぐ重要な林帯である。隣のホールがドッグレッグしているとボールの飛び込みが多いので、樹種は枝張りのある樹高15m以上の常緑樹を揃える。樹木の間隔が狭すぎると(6m以下)片枝となり、強風が吹くと倒れやすく、生育不良や病虫害に犯されやすくなる。このため樹木の間隔が6〜12m離れていると、片枝にならず樹形も整う。また、樹木の間隔を適度に取ると日当たりや風通しも良くするので、整った樹形で成育しやすくなる。コース開場時は樹木も小さく、安全と修景のため多く植栽されたが、年数を経ると樹木は大きくなり密集し弊害が出てくる。木を切らずに放置していると林帯を劣化させるので間引き伐採をし、次世代の樹木を植栽して樹林帯のバランスを図る。また樹林帯のヘビーラフは三連乗用ロータリーモア(全幅3m)で芝草を刈込むので、6m以上の樹間は欲しい。
コースの樹木で季節感を感じることはプレー中の楽しみの一つである。コース設計者がイメージした樹木の配列やの高さ(樹冠線)を保つことは、コース全体の落着いた雰囲気を保ち、デザインバランス、メモラビリティ、エステティックス、戦略性を高めるので、樹木の成長、性質を見て樹木管理を行う。樹木には陽樹。陰樹、中庸樹があり、コースの状況に応じて樹種のバランスを決め、植栽することが重要である。
陽樹(太陽の光に対する要求性が高い樹木)
アカマツ、クロマツ、タギョウショウ、カラマツ、カナメモチ、ウメ、カツラ、ケヤキ、ソメイヨシノ、ハナズオウ、カイズカイブキ、ミカンなど。
陰樹(太陽の光に対する要求性が低い樹木。日当たりの悪いところでも育つ樹木)
カシ、クス、ブナ、ツガ、イトヒバ、イヌマキ、ヒノキ、ヤブツバキ、ナワシログミ、アセビ、サカキ、シキミ、トベラ、ナミ、ナンテン、ヒイラギナンテンなど。
中庸樹(陽樹と陰樹の中間にあり、日陰に対して適応性のある樹木)
アラカシ、キンモクセイ、キンシバイ、シラカシ、ドイツトウヒ、ヤマモモ、コブシ、モミジ、ハナミズキ、ナツツバキ、トサミズキ、ヒメシャラ、ニワトコ、チャノキなど。
グリーン周辺の樹木 |
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グリーン周辺の広さは、グリーンエッジから20〜30mが理想であるが、地形の状況によっては取れないホールもある。グリーンキーパーは、夏期の良好なグリーンコンデション維持に苦労している。ベントグラスは寒地型の芝草であり、16〜24℃が理想の温度である。ニューベントグラスの開発により耐暑性、耐病性に優れた種子が開発され、夏の暑さにも耐えられるようになったが、日当たりと風通し、水捌けが良くないと適切な管理はできないので、グリーン周辺部の木を剪定したり、状況により伐採したりしないと良好なグリーンコンデションの維持は難しい。十分日が当たらないと病害、虫害が頻発し、薬剤を多用するようになって、環境にやさしいグリーン管理はできなくなる。
ベントグリーンを健全に育成する為には東南に陽樹か落葉樹を植栽すると良い。日当たりと風通しを考えると樹木の間隔は5m以上、樹高は5〜10mが理想である。グリーン周辺を囲むように植栽されている場合は、東南方向と北西方向の樹木の本数を減らすと、夏期の風の通り道が確保され風通しが良くなってグリーンは蒸れない。
必要以上に樹木を伐採するとグリーン周辺の景観を損ねるばかりでなく、熱風が入り込みベントグラスを弱らせる原因となる。以前、ゴルフコースで夏の30℃以上ある日中に温度調査したとき、樹林を通ってきた風の温度と樹木の少ない所を通ってきた温度は平均2.5〜4.0℃の差があった。高温多湿の夏期では樹木の果たす役割は大きい。グリーン周辺の温度、湿度やグリーン床土の温度を計測し、病害、虫害の発生情報などをグリーンキーパーに聞いて樹木本数(緑量)、樹木の高さ、種類の調整が必要である。
グリーン周辺に植栽しない方がよい樹木は、サクラ、メタセコイヤ、スギ、ヒノキ、ヒマラヤシーダなどである。冬期に落葉がグリーンに落ちるとパットに影響するし、スイーパーやブロアーで除去清掃作業に多くの時間が掛かる。コースのプレーアビリティ、コースコンディションは樹木と密接な関係があり、長期的な視野に立った樹木管理が行われなければならない。まさにゴルフコースは「生きている芸術品」と言われる所以である。
(芝草コンサルタント、樹木治療士) |