●ジャンボ尾崎との基本設計
世界で戦った尾崎と知り合えたことは、私のコース設計の上で非常に大きな参考となった。何故ならA・パーマーやJ・ニクラウス、またG・プレイヤーといったまさに世界の一流コースで戦った彼らは、後に設計者として多くの名コースを生み出している。彼らはコースの戦略手法をプロとしての多くの経験から肌で感じ取っていたのであろう。尾崎もまた彼の動物的感覚はプレイだけでなく、コース設計の方へも向けられていた。
尾崎との、設計理論と競技理論から生まれた基本のヤーデージがある。基本のヤーデージといっても一般ゴルファーを基準としたヤーデージとは異なり、いわゆるトッププロからの理想的な設計戦略ヤーデージである。ジャンボの各クラブの使い分けは厳密である。1ヤード刻みでの攻略が要求されるトーナメントであれば当然で、それでこそ世界を舞台にした闘いができるのである。それには基本的にクラブのもつ機能を最大限に生かすことが必要であり、例えばピッチング・サンドウエッジなら、100ヤードがそのクラブのもつ機能、飛距離ということになる。
1ヤード先、2ヤード手前という応用はその時々の舞台セッティングに合わせることになるが、ジャンボの理想とする18ホールのコースの距離を合計するとそのトータルは7150.7250ヤードとなり、それが14本すべてのクラブを使い分けられるコースとなる。
●見えるハザードでリスクとリウォードの刺激
「日本のゴルファーはOBでゴルフを覚え、アメリカでは池で覚える」という尾崎のプレイヤー感がある。日本のゴルフ場は各ホールでOB杭が目に付き、どちらかというと萎縮したゴルフになりやすい。池で覚えるというのは、池を随所に使った雄大なコース設定の中でチャレンジ精神を発揮し、伸び伸びとゴルフができるということである。国土の70%が丘陵・山岳地という中で造られるゴルフ場は、どうしてもOB杭が目立つ。そこに、伸び伸びとスイングできない日本のゴルファーの哀しさがある。飛距離が出るほどそのリスクの大きいことは、ジャンボ自身のショットが証明している。
それはさておき、ここではハザードの置き方を述べたい。ハザードは道しるべの役割と、越えたら報酬を受けるものとがあり、そこがベストルートになる。ハザードはあくまでも見せることが基本だと思う。スコットランドやアイルランドのリンクスのように隆起した大地に草が生え、風と羊のいたずらによってできた自然のコースならともかく、日本のように自然を活かしながら造形するゴルフコースは、設計者の意図を明確にしておかなければならない。
バンカー、池、クリーク、風といったハザードの要素をどう活かすかは、設計者それぞれの個性と感性にゆだねられるものである。コース設計者はその人のゴルフ技量を含めて図面に落とし込むわけだが、その地の風土、植生、四季折々の風向きを勘案しながら、万人のゴルフを想定してハザードを組み込まなければならない。ここに各々個性ある戦略的な要素が加えられれば、各ホールはそれぞれが違った顔を持つことになり、難易に変化がつき、18ホール全体の中でバランスをとって構成ができることになる。適切なハザードの位置はリスクとリウォード(危険と報酬)の関係を持たせ、ゴルファーを刺激していくものになる。
●フェアなフィールドの設定が大事である
ハザードは見せておかなければならないということは、「ゴルフコースはゴルファーにフェアなフィールドである」という前提である。それは第一打、第二打のランディングエリアも、グリーンにおいても同じことが言える。
ティグラウンドに立った時、そのホールの強さ(いいかえればプレイヤーとの闘いを待つホールの姿)を感じることは大事な点だが、プレイヤーがどこに、どのようなショットをしていけばよりよいスコアに結びつけられるかというフィールドが見えること、そして第二打、三打を想定してランディングエリアを造っていくことになる。
そのためにはどのルートを取らせるかという二者択一、三者択一という幅をもたせグリーンに向かって狙いを定められる事がプレイの醍醐味を高めていくのである。グリーンについても同じである。絞り込まれた1点を狙うことになるプレイが、漫然と広がった焦点で待ち受けられていたのでは興味が半減する。ゲームをつくる際に緊迫した関係はプレイヤーの技術と、それを想定してどう守るかという設計者の工夫がそのホールをいっそう引き立てることになる。その上でグリーンは適度なバリエーションのなかで、まんべんなくフェアに造ることが大事である。飽きのこないグリーン形状に、錯覚と錯誤をおりこみ、スリル感が味わえることを忘れてならない。
●経済的であることの大切さ
各論的にゴルフコースの距離とハザード、ランディングエリアの在り方とグリーンについて述べてきたが、もう一つ上げておかなければならないことはコンディションづくりの重要性と経済性である。
経済的であるということは、たとえばツー・グリーンとワン・グリーンの場合の管理費用を、年間を通して比較してみればわかる。当然ワン・グリーンの方が管理上、経済的に優れていることは明白だ。
これはまた、設計の段階から重要な課題として把握しておくことを忘れてはならない。プレイの面白さやスリル感を保ちながら、比較的容易なメンテナンスが行われるように設定することは、私たちのやるべき大切なポイントになる。そのなかで経済的なコース・コンディションの維持を目指さなければならないわけだ。
経済的ということは人件費ばかりでなく、管理上の時間的節約と効率も図らなければならない。作業がはかどればはかどるほど管理の幅も広がり、よいコンディションづくりにつながるからである。
すばらしいコンディションでプレイできればプレイヤーはプレイ意欲を増し、それが高いリピート率につながり、ひいてはゴルファーの増加や育成を容易にするといえる。よいコンディションづくりのために、よいメンテナンスができるよう大いに意を注いでおきたい。
●パブリックコースのレベルアップを考えたい
いろいろな方々にゴルフを好きになってもらい、プレーしてもらうばかりでなく、マナー・エチケット・ルールのもとにフェアな精神、困難を克服し対峙して流されない精神力など、底に流れるゴルフの心を社会生活のなかに生かして欲しいと願っている。ゴルフにはそれらが詰まっており、それを尊重して欲しいのである。
そこでパブリックコースに必要なことは、コース難度のレベルアップではないかと思う。もちろん、気軽にラウンドできるやさしいコースがあってよいと思う。しかし同時に、難度の高いコースも用意する必要があるのではないだろうか。戦略性を盛り込んだ本物志向のコースでプレイすることが、スポーツゴルフを目指すアスリート・ゴルファーを育てることにもつがるからである。
先人たちが営々と築いてきたゴルフ場業界が、いまや民事再生法の適用で苦境に陥っている。21世紀の日本のゴルフ場はもっと健全な経営を目指していかなければならないと思う。世界を舞台に活躍する若い世代も増え、彼らに受け入れられるゴルフコース造りを改めて考えなければならないだろう。
ゴルファー育成と同時に、ゴルフ場の再生、そしてコースのリニューアルに向けて私たちは進んでいかなければならない。
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